まえすとろ日記 番外編の過去編 

その2 これって贅沢ですか、それともマナー?!

 「今日は、九州。明日は東北。日本全国を飛び回る…….。」 小さい頃、そんな仕事の'商社マン'に憧れていた私だが、指揮者という多少ヤクザな世界であるが、移動の多い仕事に就けたことは、ある意味、その夢を果たしたといってよいかもしれない。

 古くは東京オリンピック以来、そして(今は亡き)田中角栄元総理大臣のおかげか、日本全国に縦横無尽に新幹線が開通し、便利になった。しかし、それはある意味、移動の多い我々にとっては残酷なことであり「どこの仕事も日帰りの」そんな仕事が多くなったのも事実である。それが関西でも、東北でも…、そして、ときには広島、山口でも……。

 こんなご時世だが、移動はできる限りグリーン車を使う。そのおかげで'ギャラが安くなって'も…だ。 普通(指定)座席に乗ると、席の隣にくる人が極めて重要になってくる。 それこそ'おしゃべりのおばさん'が座ろうものなら、最悪である!「おにいさん、どこまで行くの?!」…どこへ行こうとイイではないか。「何してらっしゃるの……?」…平日の昼間の時間、ネクタイも締めていない私の姿が不思議なのか、よく尋ねられる質問である。そんな時は、決まって、『フリーターです!!』と答える事にしている。(ある意味、事実である) その私の素っ気ない答えで、会話を打ち切られると、途端にお弁当を開き、食事がはじまる。現地に着いてすぐのリハーサルのため、集中するためにも、お腹をすかせておく私にとって、これほどの拷問はない、持っているスコアも 開けないまま、只ただ空腹に耐え目的地へ到着する。

 帰りは帰りでこれまた大変である。隣に若い女性が座ろうものなら'自分が汗臭くないか、そればかり気になってしまう。(私のリハーサルを見られたことのある方は想像できると思うが、熱中のあまり、冬でも大汗をかく。) 先に記した通り、交通の発達とともに日帰りが多くなった今日、ホテルによってシャワーを浴びている暇もなく、着替えだけをして、体にパウダースプレーをおもいっきり吹きかけ、新幹線に飛び乗る。隣の席の、若い女性に「フー」と鼻で深い呼吸をされ、反対を向かれるものなら、東京までの道のりは、それはそれは憂鬱である。ある時は、指定券を持ちながらも、デッキで到着までの時間を過ごしたこともあった。

 そんな訳で、最近はもっぱらグリーン車を使用する。皆になかなか理解してもらえないのだけれど…….(特に、東北新幹線は座席が単独なので'汗臭いであろう'私にとって何よりありがたい)

 『こんなご時世だけど、どうか勘弁して!…そして理解して!…。気の小さい私は、これでも、いろいろと気を使っているのですよっ!!』                         

酒井 敦(指揮者)記

その1 安上がりでごめんね!

 音楽メンバーのある日の会話。「いや〜、ついに楽器買っちゃったよ!」「なかなか良いリードが見つからなくて、作るのも結構大変でさー」なんだかんだと何が高いだの、何が大変だのとエセ貧乏自慢が始まった。そして極めつけはこの質問・・・。「ねぇ、指揮棒って、どうしてるの?自分で作るの?」

そりゃ以前(若い頃)は、私も東急ハンズに通い、材料を買い込み、あーでもない、こーでもないと一晩かけて作ったものでした。そういう自称力作棒に限ってその翌日の練習でタクトの材質が悪いのか、はたまた譜面台が丈夫すぎるのか、ちょっと譜面台を棒がかすったかと思った瞬間、一瞬でポキリ・・・と。あぁ、こんなことなら、徹夜で指揮棒なんか作らずにもっとこのシンフォニーを勉強しておくんだった・・・。そう思ってからもっぱら指揮棒は買うことにしている。1本2500円也。

 一般的に指揮者は、いつも譜面台をバシバシ叩きながら、「ちがーう!!」などと叫んでいるイメージが強いようだが、現実は全く違い実に穏やかなもの、ましてや譜面台を叩くなんてことはおろか(譜面台を叩くことはプロの指揮者の中ではタブーとされている)、「みなさん、どうぞよろしくお願いします」などとプロの音楽家に対しては実に丁寧な対応をするのである。

 そんなこともあって私の場合、1本買うと約2〜3ヶ月は持つ始末。

 いつもリードを作ったり、買ったりする木管楽器の人や弓を張り替えたり、弦を張り替えたりする弦楽器の人、マレットをはじめ消耗品の多い打楽器の人達には申し訳ない。

 でも私は言いたい。「おい!指揮者ばかり責めるなよ!歌手をみてみろ、すべて自前(声)だぜ!」  

酒井 敦(指揮者)記

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